Life Peeping Documentary
Short Short Storytelling
#2 神様になった犬
海と神の話? 私、共通語苦手ですが、いいか? そうか。
じゃあ……あれ、生き物。犬の話、します。
海星【haixing/ハイシン又はハイシン教と呼ばれる。ひいろ地区で広く信仰されている】には、多く、多くの神様いますね。学問、商売、家族円満、家電供養。
今日、私話しますのは、平狼(ピンロウ)という神。平狼、コマドリ横丁【ひいろ地区の海沿いにある小さな商店街】に、ささやかな廟がある。そこにいる。大きな灰色い、犬の像がそうですね。私、そこの近くに住んでいましたので、よく覚えています。観光アプリで、ちゃんと由来聞くことできるので、文字読めません人もご安心ですよ。
平狼、元々、その辺の犬ですね。我々の生まれたよりずっとずっと前、生まれたてのオズで、ペットというのが、生きた動物でした頃の話。
自由で、怠け者が平狼でした。コマドリ横丁の人間に世話されていましたのですが、床屋の玄関で寝そべり、出入り口をふさいでテコでも動かないですとか、雑鍋【ざつなべ:加工食品の余りや、何かの可食部を煮込んだ鍋】屋から余り物を食い逃げですとか、どこでも粗相するですとかの、犬でした。
あー、私は、本物の犬見た事ない。ですので、よく分からないですが、とにかく平狼は、昔のオズではよく見る、犬でしたそうです。
コマドリ横丁のみんなが、平狼大好きでした。仕事道具片手に追い回すこともしますが、その時はだいたい、平狼が米袋破いたですとか、店の品台無しにした時ですね。中でも、辻の手相見のじじいが、一等可愛いがりしてました。平狼のこと。
そのじじい、手相より、釣竿の先っぽ見る時間が長いじじい。磯釣り好き。じじいが釣りの格好だと、平狼が必ずどこかからでも走ってきて、一緒に行く。でも、じじいが釣りをしている間じゅう寝てて、たまにじじいが喜ぶ声に、めんどくさそうに片目を開けるだけ。
確か、そろそろ雪も降るような頃でした。磯釣りの最中、泳ぎの下手なじじいが海に落ちたんだね。
救命胴衣を着ていても、ダメなものはダメなので流された。周りには何人か釣り人いましたけど、素人飛び込んだら危ないので、通報して見守る。そういう人間のかわりに、平狼頑張った。
じじいが海に落ちた音で、平狼目を覚ます。今までの怠け者がウソみたく、勇敢に冷たい海に飛び込んだ。流されるじじいに向かって、ザブザブ泳いだ。それで、じじいの上着を……こう、くわえて。力いっぱい岸に戻った。見守っていた釣り人、さすがに手を貸して引き上げる。
それで、じじいも平狼も無事だったので、ニュースが取り上げました。それは、美しい主従の形をしました。それを見て、忠義の犬、平狼に会いたい人間、たくさん横丁に来た。横丁は賑わい、万事大吉。
で、終われば良かったけれど、ダメ。
横丁は、年寄りが余生でやっている店の寄せ集めですね。多くの人を捌くノウハウがない。犬はどこですか、と聞かれても、自由に歩いてる犬がどこにいるか、横丁の年寄りだってすぐ分からない。それで、勝手に聞いておいて勝手に怒る人間もいたらしいです。
ですから、今廟が建っているあたりに平狼の像を作りまして、とりあえずそこを案内することとしました。それとは別に、防犯カメラを使って、平狼の姿のリアルタイム配信もやっていましたね。平狼だけ、なんにも変わらないのんきな暮らしを続けましたが、じじいが磯釣りに出る時、寝るのやめましたそうです。そんな平狼も生き物ですので、天命が定まっている。力いっぱい泳いだ平狼に寿命が追いつきました。
平狼の亡くなったこと、またニュースになりました。あの忠犬が愛されて天寿を全うとか、そういう形でした。平狼の話が蒸し返されました。なんて言うんでしたか。そう……再ブレイクですね。今度はお参りする人間が押し寄せた。
仕方なし、横丁でお金出し合って、簡単な廟をこしらえることにした。でも、犬の廟を建てたことありませんのですから、犬は良い神か、悪い神か、という話から始めることが必要でした。海星、廟をこしらえることは、神様をまつることです。平狼、ずっと、ただの犬でしたのに。
とても話し合ったり専門家を呼ぶなどして、さいごは平狼のこと良い神様としておまつりした。それで、平狼を拝むと飼い犬と仲良くなれるとか、海難事故に遭わないとか、水泳が上手くなる、ということにしました。今は飼い犬っていうと人形なので、別に願掛けはいらないですね。
こうして、怠け者の平狼は、海でじじいを助けたおかげで神様になりました。じじいの方も寿命で亡くなって、こっちは神様にはなりませんで、手相見のままでした。
ええと、話が終わると、めでたしって言うんでしたか? でも、まだ話もうちょっとある。おまけ。
泳ぎ上手の平狼、泳ぎが上手なら、沈まないですね。つまり、浮いています。浮くは受かるに転じまして、いつからか「試験に合格する」という、やってもいないご利益が増えました。
ですから、テストとか、試験とか、そういう名前のつくものに挑むシーズンですね、横丁はいつもより元気になるんです。溺れたじじいが平狼に助けてもらえたみたく、勉強と仲良くなれていれば、平狼にも助けてもらえるかもですね。
神様になった犬の話/語り:琴錫香(Qin Xixiang) 終わり